【2025年】新事業進出補助金の概要・対象要件・補助率・スケジュール・採択ポイントを行政書士が徹底解説

新事業進出補助金(2025年版)|中小企業の新たな挑戦を後押しする成長戦略支援策
行政書士 潮海俊吾

執筆・監修:行政書士 潮海 俊吾(シオミ シュンゴ)

京都府行政書士会(登録番号19272132号)

  • 補助金サポート実績 105社 / 採択率73%
  • 開業2019年|補助金・相続セミナー講師・相談会登壇

当該記事は、比較的大きめの投資(1000万~8000万程度)を考えておられる中小企業経営者の方などを対象にしております。要件に当てはまれば新しい事業に挑戦しやすくなりますので、ぜひ検討してみてください。

本記事の内容
はじめに:新事業進出補助金とは

補助金制度の詳細

申請プロセスとスケジュール

新事業進出補助金を活用するメリット

注意点とデメリット

関連補助金制度との比較

採択されるための実践的ポイント

まとめ

1. はじめに:新事業進出補助金とは

「新事業進出補助金」は、既存の事業とは異なる新市場や高付加価値分野への新規事業展開を後押しするために2025年度から新設された国の補助金制度です。中小企業が企業規模の成長・拡大を図り、生産性向上を通じて賃上げにつなげることを目的に掲げています。

対象者は全国の中小企業および一部の小規模事業者・個人事業主まで含まれ、「中小企業等」が既存事業と異なる新事業に挑戦する場合に申請可能です。

ただし創業間もない事業者(設立・開業から1年未満程度)は対象外とされており、最低でも1期分の決算書を提出できる事業者である必要があります。

本補助金はコロナ禍で創設された「事業再構築補助金」の後継制度とも位置付けられ、政府資料では約1,500億円の予算が計上されています。より厳格な要件のもとで中小企業の新しい挑戦を支援する大型補助金制度となっています。

2. 補助金制度の詳細

2.1 補助対象者

日本国内に本社と事業実施場所を有し、中小企業基本法の範囲内であること。設立から1年以上経過し、従業員が1名以上いる企業が対象です。

対象外:創業1年未満の事業者、従業員0名の事業者、みなし大企業。

2.2 主な要件

  • 新事業進出要件: 既存事業とは異なる新市場・新製品・新サービスへの挑戦。
    基本要件として特に重要なのが「新事業進出要件」です。申請する事業計画は、公募要領で定義される「新事業進出」に該当していなければなりません。すなわち、自社の既存事業とは製品・サービスも顧客層も異なる新規事業であり、将来的に新事業の売上や付加価値が一定割合を占める計画であることが求められます。単なる既存商品の増産や小改良に留まる計画では要件を満たせず、新規性(新製品/サービス)と市場の新規性(新たな顧客層や用途)を同時に満たす必要があります。
  • 事業計画要件: 金融機関・認定支援機関の確認を受けた3〜5年計画。
  • 付加価値要件: 事業終了後3〜5年で付加価値額年平均4%以上増。
  • 賃上げ要件: 給与支給総額+2.5%以上、または最低賃金+30円以上。
    賃上げ要件の具体的な水準は「①従業員一人当たり給与総額を地域別最低賃金の直近5年平均伸び率以上」または「②給与総額を年平均2.5%以上」のいずれかを達成することと定められており、計画達成に失敗した場合は受給した補助金の返還義務が生じます。
    加えて、事業場内最低賃金(自社内の最も低い時給)についても、事業実施地域の最低賃金より毎年+30円以上高い水準を維持することが必要で、こちらも未達時は返還対象となります。これら賃上げ目標は非常に厳格であり、本補助金が賃上げ・雇用環境改善を強く重視していることが窺えます。
  • ワークライフバランス: 次世代育成支援法に基づく一般事業主行動計画を公表。
  • 目標未達時: 未達成率に応じて返還義務あり。ただし天災等は免除。

2.3 補助上限額・補助率

  • 補助率:原則1/2(税別1,500万円以上の投資が必須)
  • 従業員20人以下:2,500万円/特例3,000万円
  • 21〜50人:4,000万円/特例5,000万円
  • 51〜100人:6,000万円/特例7,500万円
  • 101人以上:7,000万円/特例9,000万円
  • 特例要件:最低賃金+50円、給与総額+6%以上を計画達成

2.4 補助対象経費

機械装置・システム構築費、建物費(新築・改修含む)、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウド利用費、外注費、知財関連費、広告宣伝費など。

交付決定前の発注は対象外。対象外経費は公募要領で確認が必要。一方、人件費や賃借料などの運転資金的な経費や、研修費・廃業費といった旧事業再構築補助金で対象だった経費は本補助金では補助の対象外です。また対象経費内でも細かな制限があり、例えば外注費は補助対象経費全体の10%以内、専門家経費は上限100万円、広告宣伝費も事業計画期間1年あたり売上見込みの5%以内といった内訳上限が定められています。これらの制限により不適切な過大経費計上を防ぎ、実効性ある投資に絞らせる狙いがあります。

3. 申請プロセスとスケジュール

  • 申請は電子申請のみ。GビズIDプライム取得が必須。
  • 第1回公募: 公募要領4月22日公開/申請6月17日〜7月10日/採択発表10月頃
    書面審査・採択発表: 応募締切後、事務局により書面審査が行われます。審査は有識者による採点方式で、事業計画の新規性・波及効果、実現可能性、収益性や賃上げ計画の妥当性などが評価されます。審査の結果、採択となった案件は「補助金交付候補者」として発表されます。第1回公募では3,006件の応募に対し1,118件が採択され、採択率約37.2%という結果でした。採択通知(交付候補者決定)は締切から約2~3か月後に行われ、第1回では2025年10月1日に結果公表されています。なお、複数企業の連携体で共同申請するケースも認められています(この場合も採択件数上は1件とカウント)。
  • 第2回公募: 公募9月12日公開/申請11月10日〜12月19日
  • 交付決定前の発注経費は補助対象外。
    事業実施期間は交付決定日から最長14か月以内(採択発表日から起算して16か月後の日まで)と定められています。比較的タイトなスケジュールで新事業の立ち上げ・設備導入を完了させなければならず、スピーディーな計画遂行が求められます。

4. 新事業進出補助金を活用するメリット

  • (1) 大規模投資への資金支援
    最大で数千万円規模の補助金を受けられる本制度は、企業にとって高額な初期投資の自己負担を大幅に軽減できる点が最大の魅力です。補助率1/2であれば実質的に設備投資額を半分に圧縮でき、例えば2,000万円の設備導入でも自己負担は1,000万円で済みます。
    こうして補助金で浮いた資金を他の運転資金や追加投資に充当でき、資金繰りに余裕を持ちながら新規事業に踏み出せます。補助額が大きいため、普段であれば諦めていた最新設備や大型システムへの投資も実現しやすくなり、企業の成長スピードを飛躍的に高める契機となり得ます。

  • (2) 信用力・対外評価の向上
    国の厳正な審査を経て採択された実績そのものが、企業の事業計画の実現可能性や成長性が公的に認められた証と言えます。そのため、金融機関からの評価が向上しやすく、今後の銀行融資や資金調達の場面でもプラスに働くでしょう。
    実際に「補助金採択企業」という肩書きは取引先や顧客にも安心感を与え、ビジネス上の信用力アップにつながります。また、自治体や支援機関とのネットワーク構築にも有利に働くケースがあり、公的支援を受けた企業として地域でのプレゼンス向上も期待できます。

  • (3)新事業推進の加速・波及効果
    補助金を得ることで従来は難しかったチャレンジが現実味を帯び、事業化のスピードが加速します。潤沢な補助をテコに思い切った設備投資・研究開発が可能となり、競合他社に先駆けて市場投入することで有利なポジションを築けます。また、新事業への挑戦は社内にも刺激を与え、従業員の士気向上やスキルアップにも寄与します。
    最新の設備やシステム導入は生産性向上だけでなく社員のモチベーション向上にもつながり、新しい事業への参画意識が高まるでしょう。加えて、賃上げ目標の達成が補助要件となっていることで、従業員にとっても将来的な給与アップの期待感が生まれ、優秀な人材の確保・定着にもプラスに働く可能性があります。
    さらに補助事業を通じて得られた新商品・新サービスは、自社の競争力強化だけでなく関連業界や地域経済への波及効果ももたらすでしょう。政府の大型補助金を活用することで、企業は「国のお墨付き」を得つつ成長戦略を加速できる点が大きなメリットです。

  • 収計画策定力の向上
    補助金申請にあたっては綿密な事業計画書の作成が不可欠であり、このプロセス自体が企業にとって大きな学びとなります。自社の強みや市場分析、収支試算、資金計画、リスク対策などを細部まで検討することで、経営計画の精度が高まる効果があります(※この点は定性的なメリットですが、申請を機に自社の将来像がよりクリアになるという声も多く聞かれます)。
    採択後も定期報告やモニタリングを通じて計画遂行を振り返る機会が得られ、中長期的な経営管理力の向上につながります。さらに国の施策や専門家の知見に触れることで、自社だけでは得られない最新情報や経営手法を取り入れる契機ともなるでしょう。

5. 注意点とデメリット

  • 競争率が高く、採択の確実性はない。
    補助金は「申請すれば誰でももらえる」ものではなく、詳細な事業計画書や数多くの書類準備が必要です。中小企業にとってこれらの作業負担は大きく、専門家支援を仰ぐ場合は別途コストも発生します。しかし採択率は第1回公募で約37%と競争率が高く、せっかく時間と労力をかけても不採択に終わるリスクがあります。不採択の場合、その間に計画していた投資を先延ばしにすることにもなりかねず、事業戦略に影響を及ぼす点は留意が必要です。

  • 事業計画書の作成に専門知識と時間が必要。

  • 補助金は後払い制(入金まで時間を要する)。
    補助金で認められる経費は限定的で、日常の運転資金や在庫仕入れ、土地取得費などは対象外です。仮に申請計画にこうした補助対象外の経費が紛れていると、その部分は補助金が支給されず減額となってしまいます。例えば機械装置費に付随する工事費の一部が対象外と判定されるケースや、汎用ソフトウェア購入費が認められないケースなどがあり得ます。
    結果として当初期待した額の補助金を満額得られず、自己負担分が増える可能性があります。また、交付申請時に事務局の精査で当初計上経費がカットされることもしばしばあるため、過剰な経費見積もりは禁物です。要件に合致しない投資は初めから計画に入れず、補助対象経費のみで事業成立するスキームを組み立てる必要があります。

  • 目標未達時は補助金の一部返還義務が発生。
    本補助金最大の特徴である賃上げ要件は、企業にとって諸刃の剣です。計画期間中に一定の賃上げを約束するため、景気や業績が不調でも人件費増加を実施しなければならないプレッシャーがあります。もし目標未達の場合は補助金返還という厳しい罰則があり、最悪の場合「補助金だけ使って計画未達で全額返金」という事態も起こり得ます。
    特に将来の最低賃金動向や人件費高騰のリスクも踏まえると、中長期で賃上げを維持するハードルは決して低くありません。近年の大型補助金(ものづくり補助金等)では同様の賃上げ要件が付くケースが増えていますが、本制度では未達時のペナルティが明確に規定されているため、計画段階から慎重な人件費試算が不可欠です。また賃上げ以外にも事業計画期間内に新事業売上高を伸ばすことが前提となっているため、新事業が軌道に乗らなかった場合の事業失敗リスクも考慮する必要があります。補助金に頼って無理な事業拡大を図ると、最終的に経営を圧迫する可能性もある点に留意しましょう。

  • 交付決定前発注は対象外。

  • 事業化状況報告が5年間義務付けられる。
    補助事業に採択されると、完了後もしばらくは事務局や関係機関から事業の継続状況について報告を求められ、いわば長期間「紐付き」状態になります。報告内容に虚偽があれば返還や制裁措置の対象ですし、補助事業で取得した設備には原則処分制限が課せられるため、事業方針の変更や設備入替の自由度が下がる場合があります。例えば設備を売却・転用したくても所定期間は勝手に処分できず、ビジネスの柔軟性が制約される可能性があります。
    さらに、公的資金を受けた以上コンプライアンス遵守はより厳しく求められ、不適切な経理処理や目的外使用が発覚した場合、企業の信用失墜や行政処分に発展しかねません。総じて、補助金は返済不要のありがたい資金ではありますが、その分手続きや責任も重いことを認識し、「使いこなす」覚悟と体制が必要です。

6. 関連する補助金制度との比較

6.1 事業再構築補助金との違い

事業再構築補助金がコロナ禍の回復支援を目的としていたのに対し、新事業進出補助金は「成長促進」を目的とし、新市場・高付加価値事業への進出を重点支援します。
事業再構築補助金はポストコロナ期に企業の思い切った事業転換や業態転換を支援する目的で創設され、多様な転換類型(新分野展開、業態転換、事業業種転換、事業再編など)が認められていました。一方、新事業進出補助金は「既存とは異なる新事業への進出」にフォーカスしており、実質的には事業再構築補助金の類型の一つであった「新分野展開」に近いコンセプトです。
つまり新製品・新サービスを新たな市場に売り込むケースのみが対象となり、それ以外(例えば同業種内での業態変更など)は含まれません。また事業再構築補助金では、コロナ禍の影響要件(売上減少要件)が初期に課されていたり、既存事業の一部廃止や縮小を伴う場合の廃業費用・従業員研修費も補助対象に含まれていました。
新事業進出補助金ではそうしたコロナ要件は無く、創業まもない企業を除く既存中小企業すべてが応募可能ですが、逆に廃業費や人材研修費は対象経費から外されています。ものづくり補助金は中小企業の生産性向上を目的とした汎用的な補助金であり、新規事業に限らず既存事業の高度化や新商品開発も支援対象です。
そのため要件面では新規性よりも技術的革新性や付加価値向上に重点がおかれ、販路が既存市場内でも問題ありません(極端に言えば、現在の事業を効率化するための設備導入などもOK)。ただし昨今のものづくり補助金も賃上げ加点要素が取り入れられるなど時勢に合わせた変更が行われており、2024年度以降は事業再構築・新事業進出補助金に近い要素も一部含まれてきています。

6.2 他の創業・成長支援補助金との比較

  • 審査傾向・実績の比較: 事業再構築補助金は全13回の公募で延べ数万件が採択されており、大企業の参入も一部可能だったため非常に多様な事例が生まれました。初回公募(2021年)は応募22,231件・採択9,336件と大量採択が行われ採択率42%でしたが、その後回を追うごとに競争が激化し、第11回公募では採択率26.5%まで低下するなど狭き門となりました。
    審査ではコロナ禍で売上減の企業を救済する目的もあったため、比較的リスクテイクした大胆な事業再構築が評価された一方、不採択理由として「計画の実現可能性が低い」「既存事業との関連性が薄い」といった指摘も多かったようです。一方の新事業進出補助金は第1回公募の採択率37.2%と、事業再構築補助金の平均と比べればやや高めでした。
    ただし要件の厳格さから応募件数自体が抑制されており(初回応募3,006件は事業再構築初回の7分の1程度)、より選抜されたチャレンジ企業が集まった印象です。
    審査傾向としては、事業再構築補助金と同様に製造業の採択が多く、サービス業の採択が相対的に少ない点は共通しています。ただ新事業進出補助金では賃上げ計画まで踏み込んだ評価がなされるため、収益力と人件費増加のバランスにシビアな目が向けられています。ものづくり補助金はこれまで年2~3回のペースで公募・採択を繰り返し、1回あたり1,000~2,000件規模の採択が行われてきました(採択率は概ね30~50%台)。技術力や新規性とともに事業計画の綿密さが評価される傾向が強く、加点項目としてIT活用や計画策定プロセスでの認定支援機関関与などが重視されてきました。直近では環境配慮やデジタル化等のテーマも審査の観点に加わっています。
    実績面では、ものづくり補助金出身の中小企業がその後新製品を市場投入し成長を遂げた例も数多く報告されています。一方、事業再構築補助金はコロナ対応という特殊要因もあり、すべての案件が成功しているわけではなく、中には設備導入したものの需要開拓がうまくいかず苦戦している事例も見られます。
    新事業進出補助金は始まったばかりで実績はこれから蓄積されますが、第1回採択企業1,118社の今後の事業成果や賃上げ達成度合いが注目されるところです。制度ごとの特徴を踏まえ、自社の状況に適した補助金を選択・活用することが重要と言えるでしょう。
  • ものづくり補助金:革新的サービス開発や設備投資を支援
  • IT導入補助金:業務効率化に資するITツール導入を支援
  • 小規模事業者持続化補助金:販路開拓・効率化を支援
  • 創業助成金(東京都):創業・開業支援
  • J-Startup(経産省):グローバル展開を目指すスタートアップ支援
  • Deep Tech Startup支援:研究開発・事業化支援

7. 採択されるための実践的ポイント

    新事業進出補助金の審査を突破するには、要件への適合性と事業計画の説得力を高めることが不可欠です。以下に過去の採択事例や加点要素を踏まえた実践的なポイントを整理します。
  • ① 要件適合の徹底確認: まず自社の計画が「新事業進出」の定義を満たしているかを厳しく点検しましょう。既存製品の延長や既存顧客向けのビジネスではないか、形式的な新規性ではなく本質的に製品・市場とも新しい挑戦と言えるかを第三者目線で見直します。
    審査では「単なる既存事業の延長ではないか?」という視点でチェックされるため、そこを問われない計画に仕上げる必要があります。例えば「既存品の性能向上版を同じ市場に売る」という計画ではアウトですが、「既存技術を応用して全く異なる分野の新製品を開発し、新規顧客層に販売する」のであれば要件に合致します。
    過去の採択事例でも、「自動車部品メーカーが医療機器事業へ参入」や、「中古タイヤ卸業者が中古車販売ビジネスに進出」など、現在の主業種・市場とは明らかに異なる領域への挑戦が採択されています。こうした大胆さを自社計画でも打ち出せるかが重要です。

  • ② 計画の具体性と数値裏付け: 事業計画はストーリーが大事ですが、それを支える具体的な数値計画の裏付けが欠かせません。審査員に「本当に実現できそうだ」と思わせるため、売上・利益計画や市場シェア予測、人員計画まで整合性の取れた数字を提示しましょう。
    特に賃上げや付加価値向上の目標値については、設備導入による生産効率アップや新製品の付加価値に関する根拠データを示す必要があります。例えば「新設備導入で製品の歩留まりが○%向上し、粗利率が○ポイント改善。それにより○年後には営業利益△△万円を達成し、平均年△%の賃上げ原資を確保できる」等、投資→生産性向上→収益向上→賃上げのロジックを明確に描きます。
    製造業の事例では、新市場性を確保しつつ品質・生産能力の指標で高付加価値化の根拠を示すことが重要だったと分析されています。単なる希望的観測ではなく、外部データや試算根拠を示し「だからこの売上・利益が見込める」と説明することで、計画の信ぴょう性が増します。また審査員は多数の申請書を見るため、ポイントとなる数値は表やグラフで強調するなど視覚的な工夫も有効です。

  • ③ 独自性と自社の強みアピール: 採択を勝ち取るには他社にはない独自の切り口を打ち出すことも有効です。類似の事業計画が乱立すると埋もれてしまうため、「なぜ自社がこの新事業をやる意味があるのか」を明確にしましょう。その際、自社のコア技術や知的財産、これまで培ったノウハウ、人脈など強みとなる資源を存分に盛り込み、「自社でなければできない新事業」であるとアピールします。
    例えば採択事例では、「高精度・高密度CT画像解析ラボ事業」(製造業の検査工程で培った技術を医療分野に応用)や、「AI行動解析による建設向け安全教育VRシステム開発」(建設業の現場知見とIT技術の融合)など、自社の強み×新分野の組み合わせが巧みな計画が見られます。
    これらはいずれも自社の技術力や経験を核に、新しい用途・顧客層へ踏み込んだ点が評価されています。自社の強みに基づく独創的なアイディアであるほど採択可能性は高まるため、申請書では市場分析や競合比較を通じて独自性を強調しましょう。

  • ④ 事業実現性と体制の説得力: どんなにアイデアが良くても、実行できなければ意味がありません。審査では「本当にやり遂げられるか」という観点で申請企業の体制や覚悟も見られます。そのため、実施スケジュールや体制図、人員の役割分担、資金調達計画などを具体的に示し、準備が進んでいることを示すと効果的です。
    可能であれば試作品の写真やデモの結果、テストマーケティングのフィードバックなど、既に動き始めていることを証明するエビデンスがあると信頼感が高まります。また必要に応じて外部リソースとの連携も活用しましょう。
    例えば大学や研究機関との共同研究予定、他社とのアライアンスやOEM供給契約の見込みなど、具体的な協力関係を示すと加点材料になります。事業計画には将来の展望だけでなく、「初年度に○○を達成し、△年目までに黒字化」などマイルストンを設定し、実現への道筋を描きます。審査員は「この会社なら計画をやり切れそうだ」と感じれば採択に前向きになります。裏を返せば、社長のリーダーシップや従業員のスキル、金融機関の支援など成功の後押し要因は余すところなく盛り込みましょう。

  • ⑤ 加点項目の活用: 前述のように本補助金には複数の加点措置があります。採択率を少しでも上げるため、該当し得るものは積極的に取得・申請しましょう。具体的には、「パートナーシップ構築宣言」はウェブ上で宣言登録するだけで完了するため多くの企業が活用しています。また従業員規模によっては「くるみん」「えるぼし」の認定取得が難しくなく、時間が許せば申請を検討する価値があります(※これら認定には一定の準備と時間を要するため、公募までに間に合う場合に限ります)。
    「健康経営優良法人」の認定も比較的取得しやすい加点で、直近では中小企業でも多数認定されています。さらに事業承継・再生支援関連の加点(アトツギ甲子園出場や再生計画策定中など)に該当する場合は見逃さず申告しましょう。ただし、加点を狙うあまり本末転倒になってはいけません。あくまで事業計画の質が最重視されますので、加点項目は「取れるなら取る」というスタンスで、計画づくり自体は王道を踏みましょう。

  • ⑥ 専門家の支援を得る: 応募準備にあたっては、行政書士・税理士・中小企業診断士や認定支援機関、金融機関の企業支援担当者など、専門家の助言を受けることも大いに有効です。補助金申請に詳しいプロであれば、公募要領の解釈や採点者の視点を踏まえたアドバイスを提供してくれます。
    ただし注意すべきは、申請書の文章は自社の言葉で書くことです。丸投げで作成すると、面談は無いにせよ文章の端々から熱意や具体性が感じられない申請書になってしまいます。専門家にはブラッシュアップや客観的チェックを依頼しつつ、ビジョンやアイディアは自社でしっかり練り上げましょう。そうすることで、万一不採択でも計画が自社の財産として残り、次のチャレンジに活かすこともできます。

  • 最後に、過去の採択事例をいくつか参考に挙げます。第1回公募では以下のような多彩な新事業計画が採択されています。

    例: 「混迷する自動車業界から高性能医療機器へ、ビジネスモデルの転換」 – 自動車部品製造業者が医療機器分野に進出し、自社の精密加工技術を活かして医療用機器を開発・販売。既存の強みを異業種で展開し、新市場を開拓した好例。

    例: 「中古タイヤ整備・卸売業を活かした、中古車販売事業への進出!」 – タイヤ卸売企業が消費者向け中古車販売に業態転換。関連業界で垂直統合することで新たな収益源を開拓。

    例: 「AI行動解析による建設向け安全教育VRシステム開発事業」 – 建設業者がVR/IT技術企業と協働し、安全教育用のVRソリューションを開発。建設現場のノウハウと最新技術を融合した独自サービス。

    例: 「鎌倉市における自社ブランドのクラフトビールブルワリー開設」 – 地元密着サービス業者が観光客向けにクラフトビール醸造・販売に新規参入。インバウンド需要も見据えた地域資源活用型の新事業。

    これらはいずれも大胆な事業ドメインの転換でありつつ、自社の持つ資源を活かしている点が共通しています。そして何より、新市場での収益獲得と生産性向上によって社員の賃上げにつなげるという本補助金の趣旨に合致した計画でした。自社の計画を策定する際も、ぜひこうした事例を研究しながら「審査員が応援したくなるような挑戦」を描いてください。他社の模倣ではなく自社ならではのビジョンを熱意とともに伝えることで、採択への道が開けるでしょう。

8. まとめ

「新事業進出補助金」は、中小企業が持続的成長と賃上げを実現するための重要な支援制度です。新市場進出や高付加価値化への挑戦を支援し、建物費や人材育成費を含む広範な経費が補助対象です。

ただし、要件は多岐にわたり、競争率も高いため、申請前に公募要領を確認し、認定支援機関など専門家の協力を得ながら早期に計画的な準備を進めることが成功の鍵です。

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事業所名行政書士潮海事務所
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